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JAPAN 移転価格
移転価格リスクと向き合う③国税不服申立てルールの見直し
2014.09.09
「<ホンダ移転価格税制>75億円課税取り消し 東京地裁-海外子会社との国際取引を巡る「移転価格税制」に基づき、法人税の申告漏れを指摘されたホンダが国に課税処分取り消しを求めた訴訟の判決で、東京地裁は28日、ホンダ側の主張を全面的に認め、約75億6750万円の課税処分を取り消した。」(毎日新聞 2014年8月28日版)
本年5月に東京地裁が日本IBMの連結納税制度等を巡る約1200億円課税処分の取り消しを認めたのに引き続き、納税者側(ホンダ)が国側に勝訴しました。ただし、新聞は東京国税当局が控訴を検討していることを報じており、今後の動向が注目されます。
企業と海外子会社等との間の取引価格である移転価格の設定については、税務調査で税務当局との見解の相違が起こりやすく、課税処分を受けるリスクがあります。また、その金額は、企業の経営を揺るがしかねない多額なものになる可能性も秘めています。
ところで、ホンダのケースのような税務訴訟(国税に関する処分の取消しを求める訴え)に関しては、処分を受けたのち、直接行うことはできません。まず、「不服申立て」という、処分を行った税務当局に対する再審査請求手続きが必要です。これを「不服申立前置」と言います。
この「不服申立て」については、本年6月、行政不服審査法の改正に伴い改正が行われました。
施行は平成28年6月13日までの日となっており、まだ少し先ですが、見ておきましょう。主な改正点は以下のとおりです。
【国税の不服申立制度の改正点】
- 「異議申立て」を廃止し「審査請求」に一元化
- 不服申立期間の延長
- 標準審理期間の設定(創設)
- 税務当局の証拠書類を納税者がコピーすることが可能に
(詳しくは、「国税不服申立制度の改正の概要」をご覧ください。)
今回の改正では、不服申立期間が2か月から3か月に延長されたり、決定・裁決を下すまでに通常要すべき標準的な期間を定めるよう努力義務が規定されたりしました。また、今までは閲覧しか認められていなかった税務当局の証拠書類を納税者がコピーすることが可能になっています。これらの改正は、同手続きの使いやすさ・利便性の向上に資することが期待できるでしょう。
しかし問題は、行政不服審査法においては、審理の公正さを確保するための「第三者機関の設置」が規定されたにもかかわらず、国税については、既存の国税不服審判所がそれに該当するということで新たに機関は設けらなかったということです。すなわち、課税処分の取消しについての裁決は、依然として国税不服審判所が行うという体制については見直しが行われていません。国税不服審判所の職員は税務署からの出向者やOBが多くを占めているなか、公正な裁決が行えるのか、疑問が残るところです。
納税者としては、費やす時間やコストの面から、不服申立て制度や訴訟といった救済制度を利用せざるを得ない状況はできるかぎり回避したいところです。特に移転価格は税務調査官との意見が対立しやすい分野です。税務調査で調査官を説得できるよう、あらかじめ、移転価格の合理性の検証過程を示す客観的な書類を用意しておくことが不可欠と言えます。すなわち、今できることとして「移転価格の文書化」について検討することが重要と思われます。
以上