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海外進出企業の国際税務入門 第10回
「国税庁の国際戦略トータルプランとそれに基づく税務調査とは?」
2018.04.05
昨年(平成29年)12月19日に、国税庁は、『「国際戦略トータルプラン」に基づく取組方針・具体的な取組状況」』を公表しました。同プランは、平成28年10月に公表されていたものです。今回のブログでは、トータルプランの概要とそれに基づく取組状況、つまり税務調査の状況のうち、海外に進出している中堅企業に関係するものをいくつか見て行きます。
国際戦略トータルプランとは?
「国際戦略トータルプラン」とは、経済社会の国際化、「パナマ文書」、「パラダイス文書」の公開やBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトの進展などを受けて、国税庁の国際課税の取組の現状と将来の方向を取りまとめたものです。
同プランでは、
● 情報リソースの充実(情報収集・活用の強化
● 調査マンパワーの充実(国際課税の専門体制の整備・拡充)
● グローバルネットワークの強化(外国税務当局との協調など)
という、3つの取組みを推進し、海外取引のある企業による国際的な租税回避行為など、課税上の問題がある場合には、積極的に税務調査等を行うものとしています。国際的な租税回避行為としては、海外で設立した会社を利用したものや、各国の税制・租税条約の違いを利用したものなどがあげられます。
同プランに基づき、海外進出企業にどのような税務調査が行われているか?
今回公表された「取引状況」によれば、同プランに基づく税務調査の事例として、以下のようなものがあげられます。
(1)「国外送金等調書」などの法定調書を利用して、海外での所得を把握した例
(2)租税条約等に基づく情報交換制度を活用して、海外取引の実態を解明した例
(3)外国子会社合算税制を適用し、外国における子会社の所得に対して課税した例
(1)の具体例
(1)の具体例として、「国外送金等調書」によりある企業が外国の個人の金融口座へ多額の送金をしている事実を把握し、取引の実態を確認するための調査を実施した件があげられています。その結果、当該企業が外国の知人と通謀して架空経費の計上により資金を国外に隠ぺいしていたことが明らかにされました。
「国外送金等調書」とは、金融機関が税務署に提出するもので、国外への送金及び国外からの受金の額が100万円を超えるものについて、送金者及び受領者の氏名、取引及び取引年月日を記載したものです。国税当局は金融機関から入手したこの情報を納税者の申告状況と比べ、海外取引に係る収入金額が除外されていないか、海外に保有する資産を隠ぺいしていないかなど、海外取引に関連した不正発見の糸口をみつけるためのツールとして活用しているのです。
その他、国税当局が活用する法定調書としては、国外財産調書、財産債務調書などがあげられます。
(2)の具体例
租税条約等に基づく情報交換制度としては、①要請に基づく情報交換、②自発的情報交換、③自動的情報交換の3つ類型があります。今回の発表では、①と②による税務調査の具体例があげられています。
①要請に基づく情報交換を活用した税務調査
要請に基づく情報交換とは、国税当局が国内で十分な情報を得られない場合に、反面調査的に外国の税務当局に必要な情報の収集・提供を要請するものです。
今回の事例は、取引先との関係を考慮して取引先の従業員に支払った謝礼を販売手数料に仮装して損金算入していたケースです。国税当局は相手国の税務当局に情報提供を要請し、取引実態を把握した結果、当該支払に損金性がないことを確認しています。
②自発的情報交換の税務調査
自発的情報交換は、自国の納税者に対する調査の際に入手した情報で外国税務当局にとって有益と認められる情報を自発的に相手国に提供するものです。
今回の事例は、外国からの自発的情報交換資料により、ある企業の代表者が外国の預金口座を国外で得た報酬の振込先としていたが、当該報酬を日本では申告していなかったことをつきとめたケースです。
(3)の事例
(3)の事例として、国外の関連法人への出資状況等から外国子会社合算税制を適用したケースがあげられています。国税当局は、資料情報等からある企業が軽課税国の法人に出資している事実を把握し、税務調査において、その出資状況、株主総会の開催場所、役員の執務執行場所等を検討した結果、当該企業が当該軽課税国において主たる管理、支配及び運営を独立して行っているとは認められないことを確認しました。その結果、外国子会社合算税制を適用しています。
今後の税務調査はどうなるか?
今回の発表から、国税当局が国際戦略トータルプランに基づき、国際課税に着実に取組み、積極的な税務調査の実施、税収の確保に努めている様子がうかがえます。
トータルプランで掲げられた施策としては、海外の預金残高等の金融口座情報や、「国別報告事項等(CbCR)」など多国籍企業情報の外国との間の交換(これらは、平成30年9月までに外国との間で交換が予定されている)など、今後、実施されるものもあります。国税当局がこれらの情報を活用して税務調査を行うことは、容易に予想できます。
今後、海外事業を展開する企業は、移転価格文書化をはじめ、国際税務に係るコンプライアンス体制を整え、課税リスクを最小限に抑えることが望まれます。
以上