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PHILIPPINES 社会保険 

【PHILIPPINES】法定の社会保険

2024.10.09

 日本と同様に、フィリピンにも法定の社会保険が存在し、病気・失業・老齢・出産等に対して経済的な保障が提供されています。今回の記事では、フィリピンの法定の社会保険について、その制度概要や留意事項について紹介します。

1. 概要

 フィリピンの代表的な法定の社会保険は以下の3点です。
  • SSS(Social Security System、年金保険)
  • Philhealth(Philippine Health Insurance Corporation、健康保険)
  • Pag-IBIG又はHDMF(Home Development Mutual Fund、住宅開発相互基金)

 企業の雇用主は従業員を加入させる義務を負い、雇用主と従業員が折半し毎月の保険料を納付することになっています。各社会保険の保険料は、各機関が定める標準報酬及び料率のテーブルに沿って算出されます。標準報酬及び料率毎年改定されており、フィリピンにおいても徐々にその負担が増してきている状況です。

2. SSS

1) 概要
 SSSは、老齢年金、障害年金、遺族年金、出産休暇手当、労働災害による傷病手当等を、加入者に対して給付する制度です。日本の国民年金保険に相当します。またSSSでは、生活資金、教育資金等に対する貸付サービスも提供しています。フィリピンでは民間の金融機関で融資を受けられる層が非常に限定されているため、SSS における資金貸付プログラムは貴重な手段の一つとなっています。

 SSSは、一般国民を対象とした社会保障制度として1957 年に社会保障法が施行され創設されました。また、SSSは社 会 保 障 委 員 会(Social Security Commission)の傘下組織である社会保険機構(Social Security System)により運営されています。SSSと同様に公的年金を運営する機関GSIS(公務員の公的年金)及びAFPRSBS(軍人の公的年金)が存在しますが、本記事では民間の労働者のみを対象とするSSSについて説明します。

2) 加入対象者
 60歳以下の全従業員がSSSの強制加入の対象とされており、フィリピン国内で働く外国人も含まれます。強制加入の対象とされていない場合でも、任意でSSSに加入することも可能です。

3) 保険料
 SSSの保険料は、標準報酬月額に料率14%を乗じることで算出されます(2024年時点の料率)。14%の料率の負担割合は、雇用主が9.5%、従業員が4.5%となっています。また、2024年時点ではPhp30,000が標準報酬月額の上限として設定されています。従って、標準報酬月額Php30,000 x 14% = Php4,200が労使合計の保険料の上限額となります。2024年時点の保険料額表(出典: SSSホームページ)でご確認ください。

4) 源泉徴収及び納付
 従業員負担部分の保険料は、雇用主により毎月の給与から源泉徴収されます。雇用主は、該当月の翌月末までに、雇用主負担の保険料を含めた合計金額をSSSに納付する必要があります。たとえば、2024年9月分の保険料は、2024年10月31 日までに納付する必要があります。

5) 日本人駐在員の対応
 日本人駐在員もSSSの加入対象となるため、原則は保険料の納付が必要となります。駐在員の場合、通常は日本でも国民年金・厚生年金に加入していることから、日本とフィリピンで二重で保険料を負担することになってしまいます。そこで保険料の二重負担を解消する目的で、2018年8月に日比社会保障協定が発効されました。この協定により、日本で国民年金・厚生年金に加入している駐在員については、フィリピンにおけるSSSの保険料納付を免除することが可能となりました。ただし自動的に免除が適用されるわけではなく、まずは日本の年金機構から「適用証明書」を取得し、それをフィリピンのSSSに提出し受理されることで、ようやく免除が適用されます。

3. Philhealth

1) 概要
 Philhealthは、入院、外来診療、出産、その他特定の疾患の治療などに関して、加入者の治療費を減額又は負担軽減のために一部補助する制度です。日本の国民健康保険に相当します。Philhealthは、Department of Health(保健省)傘下の組織であるPhilippine Health Insurance Corporation(フィリピン健康保険組合)によって運営されています。

2) 加入対象者
 原則として、すべてのフィリピン国民、及びフィリピンで働く外国人が強制加入の対象とされています。加入対象者はDirect Contributor(直接拠出対象者)とIndirect Contributor(間接拠出対象者≒被扶養者)に大別されますが、企業に勤める従業員は前者のDirect Contributorに該当します。

3) 保険料
 Philhealthの保険料は、標準報酬月額に料率5%を乗じることで算出されます(2024年時点の料率)。5%の料率の負担割合は、雇用主が2.5%、従業員が2.5%の労使折半となっています。また、Php100,000が標準報酬月額の上限として設定されています。従って、標準報酬月額Php100,000 x 5% = Php5,000が労使合計の保険料の上限額となります。保険料額表を以下に掲載します。


保険料テーブル(出典: PhilHealthホームページ)

4) 源泉徴収及び納付 
 SSS同様、従業員負担部分の保険料は、雇用主により毎月の給与から源泉徴収されます。納付期限は各企業の雇用主登録番号によって異なり、末尾が0~4の場合は翌月11~15日、5~9の場合は翌月16~20日とされています。

5) 日本人駐在員の対応
 Philhealthに関してはSSSのような免除措置が無いため、日本人駐在員についても加入及び拠出が必要となります。なお、入院や外来診療に関してカバー範囲が限定的である他、費用の一部が補填されるのみで日本の健康保険とは補助の内容が異なります。

4. Pag-IBIG / HDMF

1) 概要
 Pag-IBIG / HDMFは、フィリピン国民の貯蓄促進およびマイホーム購入の支援を目的に、マルコス政権下の1978 年に大統領令1530号に基づいて設立された基金です。2009年に改正されたHome Development Fund Law of 2009(Republic Act No. 9679)によりフィリピン政府の管理下にある民間企業により運営されています。Pag-IBIG / HDMFでは、基金の加入者に対して低コストの住宅ローンの他、貯蓄支援サービス等を提供しています。

2) 加入対象者
 原則として、SSS等に加入対象となっているフィリピン人従業員は、必然的にPag-IBIG / HDMFの加入対象となります。外国人も以前は加入対象でしたが、現在では対象外とされています。

3) 保険料
 Pag-IBIG / HDMFの保険料は、標準報酬月額に料率4%を乗じることで算出されます(2024年時点の料率)。4%の料率の負担割合は、雇用主が2.0%、従業員が2.0%の労使折半となっています。また、Php10,000が標準報酬月額の上限として設定されています。従って、標準報酬月額php10,000 x 4% = Php400が労使合計の保険料の上限額となります。標準報酬月額の上限が非常に低く設定されていることから、通常は全従業員にPhp400が一律で適用されます。

4) 源泉徴収及び納付
 SSS及びPhilhealth同様、従業員負担部分の保険料は、雇用主により毎月の給与から源泉徴収されます。納付期限は各企業名の頭文字によって異なり、翌月10日~月末までに設定されています。

5) 日本人駐在員の対応
 Pag-IBIG / HDMFは外国人が対象外とされているため、自動的に免除となります。

5. 最後に

 本記事で紹介した3つの法定の社会保険は、企業が必ず対応しなければならない制度です。毎月の保険料を確実に拠出していくためにも制度概要を把握することが重要です。また本記事では2024年時点の標準報酬月額及び保険料率に基づき紹介しましたが、今後も毎年少しずつ引き上げられて行く予定です。最新の情報については、各機関のウェブサイト等を確認するか、専門家等に個別にご相談ください。

朝日ネットワークスフィリピン 日本公認会計士 篠原之典 yshinohara@asahinet.ph