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PHILIPPINES 会計・税務
【PHILIPPINES】会計システム
2024.11.26
1. 会計システムの役割
会計システムは、企業の日々の取引を電子的に記録・管理し、経理業務を効率化するためのシステムです。取引情報を入力することで、仕訳、財務諸表の作成、債権債務の管理といった作業を自動化できるため、正確性の確保および業務の省力化が期待できます。昨今ではクラウド型の会計システムも幅広く普及し、遠隔での作業、リアルタイムでの財務状況の把握も可能となりました。内部統制の面では、システムによる承認フローの電子化や操作ログの記録により、不正防止や業務の透明性向上にも寄与します。さらに、データの一元管理により、データの可視化、予実管理、データ分析なども可能となります。本記事では、フィリピンで普及している会計システムやその選定のポイントを中心にご紹介します。
2. フィリピンの法定会計帳簿
フィリピンでは、企業はBIRおよびSECの規定に従って法定会計帳簿を保持する義務があり、その保存期間は最低10年間とされています。法定会計帳簿として認められる形式には、以下の3種類があります。手書き式会計帳簿を選択した場合、会計システムの利用は不要ですが、その他を選択した場合は、会計システムを利用して会計帳簿を作成することができます。
1) Manual Books of Accounts(手書き式会計帳簿)
ノート形式の会計帳簿に、直接手書きで記帳する伝統的な方法です。すべての記帳完了後、ノート形式の会計帳簿一式をそのままBIRに提出します。
2) Loose-Leaf Books of Accounts(ルーズリーフ式会計帳簿)
会計帳簿を表計算ソフトやその他の会計システムで作成し、それを用紙に印刷したものをファイリングして提出する方法です。帳簿データはデジタル化されているものの、提出に際しては紙に出力して保存・提出する必要があります。
3) Computerized Accounting System / Computerized Books of Accounts(コンピュータ式会計帳簿)
BIRに登録された会計システムで会計帳簿を作成し、それをそのままデータでBIRに提出する方法です。
3. 主要な会計システム
フィリピンで広く普及している代表的な会計システムを以下にご紹介します。
3.1 グローバル系クラウド型
世界中で利用者の多いクラウド型の会計システムをご紹介します。初期費用が不要で月額費用もリーズナブルでありながら、以下の基本機能が備えられているため、非常に利便性が高いです。
・各種財務諸表の作成、比較、分析
・オンラインでのアクセス
・モバイルからのアクセス
・他ソフトとの連携や拡張機能
・固定資産償却、定期取引の自動仕訳
・銀行勘定調整のサポート
・債権債務のアラート機能
・多通貨対応
・証憑データの添付 etc.
3.1.1 Xero(ゼロ)
Xeroは、ニュージーランドのXero Limited社が開発した会計システムです。主に中小企業向けに設計されており、使いやすいUI/UXで直感的に使用できるのが特長です。オセアニアを中心に世界中で幅広く利用されており、契約アカウント数は2024年時点で400万を超えています。フィリピンでもユーザー数が非常に多く、情報が入手しやすいことや、使用経験のある人材を採用しやすいといったメリットもあります。また、Xeroには、契約アカウントに追加料金なしで無制限にユーザーを追加できる機能や、作成者と承認者の権限を分けて内部統制を強化する機能が搭載されています。これらの魅力的な機能を備えていることから、在フィリピンの日系会計事務所でも幅広く導入されています。
3.1.2 QuickBooks
QuickBooksは、アメリカのIntuit社が開発した会計システムです。クラウド型がメインですが、インストール型(デスクトップ版)も用意されています。企業の業種や規模に適した多様なラインナップが用意されていることが特長です。北米を中心に世界中で幅広く利用されており、契約アカウント数は2024年時点で700万を超えています。Xero同様に、フィリピンでもユーザー数は非常に多いです。QuickBooksはXeroよりさらに低料金である一方、追加ユーザー数や承認権限の設定には制約があります。
3.1.3. Sage
Sageは、イギリスのSage社が開発した会計システムです。従来はインストール型がメインでしたが、近年はクラウド型の製品も増え、両者のメリットを組み合わせたハイブリッド型も展開されています。QuickBooks同様、企業の業種や規模に適した多様なラインナップが用意されていることが特長です。欧州を中心に世界中で幅広く利用されており、契約アカウント数は2024年時点で600万を超えています。XeroとQuickBooksに比べると、フィリピンでの存在感は劣る印象ですが、それでもメジャーな会計システムとして知名度はあります。
3.2. ローカル系クラウド型
フィリピン発祥、または他国発ながらフィリピン固有の要件に対応した会計システムをご紹介します。クラウド型の会計システムも着実に浸透してきており、全体としては以下の傾向があります。
・グローバル系の会計システムよりもさらに安価
・BIR-CAS/CBA(コンピュータ式会計帳簿)に登録可能
・税金計算、税務申告書・付属書類の作成が可能
・グローバル系の会計システムのような基本機能が無いこともある
代表的なものとして、以下の会計システムが挙げられます。
- QNE
– Oojeema
- Beppo
- Juan Tax
3.3. ERP
大企業を中心に導入されているグローバルのERPをご紹介します。会計システムは一般的に会計機能に特化しているのに対し、ERPは企業の基幹業務システムとしてあらゆる情報を総合的にカバーしているのが特徴です。サプライチェーン、生産、販売、購買、在庫、人事、会計・財務等の機能が統合的に管理されており、全体としては以下の傾向があります。
・情報が一元管理されており他機能と連動
・基本機能に加えて高度な分析も可能
・高額になりやすい
・本社主導のシステムのため、現地法人側で融通が効きづらい
3.3.1. SAP S/4 HANA
ドイツのSAP社が提供するSAP S/4 HANAは、主に大企業向けに設計された統合型のERPシステムです。SAP社はERPで世界トップシェアを誇り、フィリピンでも幅広く利用されています。またフィリピン向けのローカライズも充実しており、BIR-CASへの登録も可能です。機能ごとにモジュール単位でパッケージ化されているため、必要な機能を切り出して使用することも可能です。
3.3.2. Microsoft Dynamics 365
アメリカのMicrosoft社が提供するMicrosoft Dynamics 365は、クラウド型の基幹業務アプリケーションです。Excel等のOffice製品との連携に強みがあり、ERPに加えてグループウェアもまとめて提供できることが特徴です。
3.3.3. multibook
株式会社マルチブック社が開発・提供するmultibookは、CAS(CBA)の承認を受けたグローバルクラウドERPです。フィリピンをはじめ、32ヶ国、500社以上で利用されています。多言語・多通貨対応や国別会計要件への対応に加え、連結決算の早期化、内部統制の強化、業務効率化を実現するソリューションであり、低価格で短期導入が可能する点が強みです。また、海外経理代行サービス『海外クラウド経理部』も提供しており、経理人材不足に課題を持った企業にも利用されています。
4. フィリピンにおける会計システム選びの留意点
日本社主導でERPを導入する場合を除き、フィリピン拠点として独自に会計システムを選定することになります。その際の主な留意点をいくつかご紹介します。
4.1. BIR-CAS/CBA対応
上述した法定会計帳簿の一つであるBIR-CAS/CBAに登録することで、作業がデジタル化され、業務効率が大幅に向上することが期待されます。しかし、すべての会計システムがBIR-CAS/CBAへの登録に対応しているわけではなく、BIRが定めるシステム要件を満たしている場合のみ、登録が可能となります。一概には言えませんが、グローバル系クラウド型会計システムでは登録できないケースが多く、逆にローカル系クラウド型会計システムでは登録可能なケースが多い傾向にあります。なお、登録ができない場合でも、会計システムとしての利用には問題はありませんが、BIR-CAS/CBAに登録するメリットを享受できなくなり、手書き式またはルーズリーフ式で会計帳簿を製本する必要が生じます。BIR-CAS/CBAの登録を予定している場合は、使用する会計システムが登録に対応しているかどうか、事前に確認しておくことが重要です。
4.2. 想定される用途に適した会計システムの選択
会計システムの機能や料金はそれぞれ全く異なるため、想定される用途を洗い出し、用途に適した会計システムを選択することが重要です。例えば、クラウド機能の有無、ユーザー数の制限、言語、固定資産・在庫管理機能、税務申告機能、拡張性・連携機能、UI/UX、AI-OCR機能、サポート体制など、考慮すべき機能は多くあります。最近ではトライアル期間やデモアカウント(サンプルの取引データが入ったアカウント)を用意している会計システムが多いため、決定前に使用してみることを推奨します。また、料金体系については、買い切りインストール型、サブスクリプション型に大別されます。本記事で主にご紹介したクラウド型会計システムはサブスクリプション型であるケースが多く、グローバル系で月額数十から数百ドル、ローカル系は月額数十ドル程度のものが主流となっています。
5. 最後に
会計システムは業務効率を高めるだけではなく、業務の透明性確保や内部統制にも効果が期待できます。フィリピンならではの会計システム選定のポイントを押さえ、今後の参考にしていただければ幸いです。
朝日ネットワークスフィリピン 日本公認会計士 篠原之典 yshinohara@asahinet.ph