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【PHILIPPINES】CREATE MORE法

2024.11.13

2024年11月8日、マルコス大統領がRepublic Act No. 12066(共和国法第12066号、通称CREATE MORE法)に署名しました。同11月12日にOfficial Gazetteに掲載されたため、15日後の11月27日に正式に施行される予定です。CREATE MORE法の正式名称は「Corporate Recovery and Tax Incentives for Enterprises to Maximize Opportunities for Reinvigorating the Economy Act」で、2021年4月に施行されたCREATE法により生じた問題点に対処するとともに、経済の再活性化に向けた税制の改善を主な目的としています。
本記事では、日系企業に与える影響の大きい事項を中心に、CREATE MORE法の概要を紹介します。

1. CREATE法の振り返り

CREATE MORE法の内容に入る前に、まずはCREATE法について振り返りたいと思います。CREATE法は、コロナ禍の2021年4月に税制改革第2弾として施行され、経済活性化策として通常法人税率が30%から25%に大幅に引き下げられました。一方で、PEZA等の登録企業に対する優遇税制に期限を設けた他、輸入VATの免除及び国内購入時のゼロレートVATの対象範囲を限定するなど、合理化を目指す取り組みも同時に行われています。特に影響が大きく、かつCREATE MORE法との関連が深い3点について、以下で振り返ります。

1) 法人税率の引下げ

通常法人税率が30%から25%に引き下げられました。更に、課税所得が500万ペソ以下、かつ総資産が1億ペソ(オフィス・工場用の土地を除く)の場合には、より低い20%が適用されることとされました。また、時限措置として最低法人税率を2%から1%に引き下げる取り組みも実施された経緯があります(2023年6月末をもって時限措置は終了)。これらの施策は、通常法人税が適用されるフィリピン国内向けの事業を行う日系企業にとって、大きな追い風となりました。

2) 税制インセンティブへの期限の設定

PEZAやBOI等のIPAs*¹(投資促進機関)のRBEs*²(登録企業)の場合、2021年以前の数十年間、一定期間のITH*³(法人税免税)終了後、SCIT*⁴(特別税率)が適用されていました。SCITは、通常法人税の代わりに適用されるもので、売上総所得に5%を乗じることで算出されます。SCITは地方税も包含することから、合計の税負担を相対的に抑制しやすいとされています。CREATE法以前はSCITが無期限で適用されており、非常に魅力的なインセンティブと位置づけられていました。

a) 新規RBEs

しかしながらCREATE法により、SCITの適用期間が10年間に制限されました。ITHの適用期間は4~7年間であるため、税制インセンティブの上限が合計で14~17年間に制限されることになりました。同様にVATや輸入関税の優遇に関しても、14~17年間という上限が設けられました。

b) 既存RBEs

CREATE法施行前から税制インセンティブを享受既存のRBEsについては、ITHが付与されている場合はその残存期間がそのまま適用されます。一方でSCITについては、10年間という上限が設けられました。
また、国内調達時のゼロレートVAT、輸入VATの免除、輸入関税の免除については、SCITの期限到来と同時に終了する旨がCREATE法のIRRにて明確化された背景があります。
*¹ Investment promotion agencies
*² Registered Business Enterprises
*³ Income Tax Holiday
*⁴ Special Corporate Income Tax(CREATE法以前のGross Income Taxと同義)

3) ED(追加控除)方式の新設

CREATE法では、上記のSCITに加えて、新たにED*⁵(追加控除)方式が導入されました。EDは通常法人税同様に税率25%ですが、課税所得を算出する際に追加的な控除が認められる制度です。本来の費用額に所定の割増率を乗じた金額が税務上の費用として認められるため、課税所得が減少し法人税が少なく済む仕組みです。例えば、直接労務費は50%、研究開発費は100%、電力費は50%、研修費は100%の割増が認められています。課税所得がマイナスになった場合、繰越欠損金として5年間繰り越せるメリットもあります。なおEDは地方税を包含していないため、法人税とは別に地方税を支払う必要があります。
CREATE法の下では、ITH期間終了後に、輸出型企業はSCITとEDのいずれかを選択適用できることとされ、国内市場型企業は強制的にEDが適用されることとされました。しかしながら、EDは認知度が低く、計算過程も複雑であることから、輸出型企業においてEDを選択適用する企業は非常に少なかったと思われます。
*⁵ Enhanced Deduction

4) 輸入VAT免除、ゼロレートVATの対象範囲の限定

輸入VATの免除及び国内購入時のゼロレートVATの対象範囲限定については、CREATE法施行以降、実務上の混乱や問題を多く招いてきた背景があります。CREATE法施行前は、PEZA等の登録企業が物品やサービスをフィリピン国外から輸入する場合、その物品やサービスの性質に関わらず、原則は輸入VATが免除されていました。同様にフィリピン国内で物品やサービスを購入する場合も、ゼロレートVATが適用されていました。しかしながらCREATE法施行により、その物品やサービスが「Directly and Exclusively(直接的かつ限定的)」に登録事業に使用される場合に限って、輸入VAT免除やゼロレートVAT適用されることとなりました。従い、「直接的かつ限定的」に含まれない物品やサービスに対しては、CREATE法施行を契機としてVAT12%が適用され始めました。「直接的かつ限定的」に含まれない物品の例としては、社用車、社宅、事務所用機器などが挙げられます。同様にサービスの例としては、法務・会計・人事・清掃等の管理部門の委託費などが挙げられ、新たにVAT12%が適用されました。当初は「直接的かつ限定的」の定義が不明確であったことから実務上の判断に混乱を招いた他、新たに生じたVAT12%分を、サプライヤーがPEZA等の登録企業に対して転嫁できず、負担を強いられてしまうなどのケースも散見されました。
また、PEZA等の登録企業においては、VATの還付申請が必要となるケースも着実に増加しています。上述のとおり、PEZA等の登録企業は輸入や国内購入時に、新たにインプットVAT(日本の仮払VATに相当)として12%が生じることになった一方、販売時は輸出ゼロレートVATが適用されるため、アウトプットVAT(同借受消費税に相当)が生じません。従ってインプットVATをアウトプットVATと相殺することができず、超過インプットVATが徐々に蓄積する構造にあります。このような場合、超過インプットVATの還付申請が選択肢となりますが、還付申請に際しては必然的に税務調査の対象となります。結果として還付申請が全面否認・部分否認となるケースも多い他、還付申請に要する追加コスト(社内工数、外部委託費等)に鑑み、やむなく還付申請を諦めるケースも多い状況でした。

2. CREATE MORE法の概要

ここから、CREATE MORE法の概要について紹介します。CREATE MORE法は、主にPEZA等のRBEsに焦点をあてた改正事項が多く見受けられます。

1) RBEsのEDR税率の引き下げ

CREATE MORE法では、PEZAやBOI等のRBEsを対象として、EDR*⁵(追加控除制度)適用時の法人税率が25%から20%に引き下げられました。また追加控除の割増率が一部強化され、電力費は50%から100%に引き上げられました。
CREATE MORE法の下では、従来どおりITH期間終了後に、輸出型企業ではSCITとEDRの選択適用、国内市場型企業では強制的にEDRが適用されます。なお新たな選択肢として、ITH期間を省略し、最初からSCITまたはEDRを適用することも可能になります。この選択肢のメリットとして、特に法人設立後に赤字が先行する場合に、EDRにより繰越欠損金を有効活用できるということが考えらえます。ITHの場合には、仮に赤字であったとしても繰越欠損金は利用できず、かつ法人税免除のメリットも享受できません。一方でEDRであれば5年間の繰越欠損金の利用が認められています。またCREATE MORE法では、最初にITHを選択し、その後EDRに移行した場合でも、ITH期間終了後からさらに5年間の繰越欠損金の利用も認められるようになりました(従来は欠損金の発生から5年間)
ITH、SCIT、EDRの3つの方式が存在することになりますが、どの方式が最も税金負担を抑制できるかは、一概に言うことはできません。各企業の利益構造および費用の内訳により、結果は異なってきます。なお、一度選択した方式は変更できないため、長期的目線で慎重な判断が必要になります。
*⁶ Enhanced Deduction Regime(Enhanced Deductionと同義)

2) 税制インセンティブの期限延長

a) 新規RBEs

i) 資本投資額150億ペソ以下

PEZA等の各IPAsが投資案件の審査を行い、承認およびインセンティブを付与する権限を有します。輸出型・国内市場型それぞれに付与される税制インセンティブは以下のとおりです。


*メトロポリタンエリアは、メトロセブ、メトロダバオ、またはNEDA等により指定されたその他地域を指す。

ii) 資本投資額150億ペソ超

FIRB*⁷(財政インセンティブ審査委員会)が各IPAsと協議し、承認およびインセンティブを付与する権限を有します。輸出型・国内市場型それぞれに付与される税制インセンティブは以下のとおりです。
*⁷ Fiscal Incentive Review Board

iii) 資本投資額500億ペソ以上 or 3年以内の現地人材直接雇用10,000人以上

CREATE MORE法第301条の規定に基づき、特例的に大統領がインセンティブ付与の権限を行使可能です。国家の持続可能な発展に寄与することが前提とされ、FIRBの推薦に基づき大統領が判断します。税制インセンティブは、ITHが10年以下、それに続くSCITまたはEDRと合計で40年間を超えない範囲とされており、超長期のプロジェクトにも対応可能です。また、SCITまたはEDRを最初から適用することも可能で、その場合も40年間が上限となります。
またインセンティブは税制優遇に限らず、土地の利用や補助金の投入を始めとした支援策も投入され得る旨が規定されています。要件は厳しいものの、魅力的なインセンティブを提示することで、より大型の投資を優先的に誘致することが狙いと考えられます。

b) 既存RBEs

CREATE法施行時点(2021年4月)で税制インセンティブを享受している既存のRBEsについては、その適用期間が2034年12月末まで延長されることとなりました。従来はCREATE法施行時点から10年間とされていたため、期限が若干ながら延長されたことになります。
またCREATE MORE法では、国内調達時のゼロレートVAT、輸入VATの免除、輸入関税の免除が、2034年12月末以降も登録事業が継続する限りは継続適用できるようになりました。VATおよび輸入関税の免除廃止は、事業の採算に大きなインパクトを与えかねないため、継続適用される方針が明確になったことは、安心材料と言えるかと思います。

3) 輸入VAT免除、ゼロレートVATの対象範囲拡大

CREATE MORE法第295条(D)において、「Directly Attributable(直接帰属する)」物品やサービスが、輸入VAT免除、ゼロレートVATの対象になり得ると規定されました。従来のCREATE法では、「Directly and Exclusively(直接的かつ限定的)」と規定されていたことから、文言が修正されています。「Directly Attributable」は、「RBEsの登録プロジェクトまたは活動に付随し、合理的に必要な物品・サービスを指す」と定義されています。そして例示として、以下サービスについても含まれる旨が明記されています。

・清掃
・警備
・金融
・コンサルティング
・マーケティングおよび販促
・人事
・法務
・会計

従来のCREATE法において、上記のサービスは、登録事業に直接的かつ限定的に寄与しない間接的なサービスである、との理由で対象外とされていました。それが今回の修正で包含されたことから、輸入VAT免除、ゼロレートVATの対象範囲が拡大することになります。この点はPEZA等のRBEsのみならず、それらの企業と取引をする一般企業にとっても影響が生じることから、留意が必要です。なお「Directly Attributable」に該当するか否かの判定は、各IPAsが実施することとされています。実務上どのような基準とフローで判定されるかがまだ明らかとなっていないため、今後の更なる明確化が待たれます。
また、CREATE MORE法では、輸出型企業に加えて、High-Value Domestic Market Enterprises(高価値国内市場型企業)も、輸入VAT免除、ゼロレートVATを適用することができるようになります。High-Value Domestic Market Enterprisesは、資本投資額150億ペソ以上の投資案件で、輸入代替と見なされる事業に従事、または直近年度に1億USドル(またはその同等額)以上の輸出売上高がある場合に該当します。この点、具体的にどのような事業であれば該当するか、今後明らかになってくると思われます。

4) RBE Local Tax(地方税)制度の新設

CREATE MORE法第294条(F)において、RBE Local Tax(地方税)が新設されました。RBE Local Taxは、すべての地方税および地方自治体が課す手数料等を代替するもので、売上総所得に対して最大2%とされています。ITHおよびEDR期間に適用され、法人税とは別にRBE Local Taxを納付する必要があります。SCITにはRBE Local Taxが課されませんが、SCIT5%の内2%分は地方税と位置付けられているため、それと足並みを揃えるための施策と思われます。

3. おわりに

CREATE MORE法について、本記事では特に日系企業に影響を与える事項を中心に紹介しました。全体としては、大型の投資に対してより重点的なインセンティブを付与することで、投資誘致する姿勢が見受けられます。また、EDR税率の引き下げおよび電力費等の控除項目の改定によって、より積極的に投資を行えるような制度の充実を図っています。従来はEDRを実務上選択する企業が少なかったことから、今後どのような変化が生じるか期待されます。
また輸入VAT免除、ゼロレートVATの対象範囲が拡大され、管理運営業務についても包含されることとなりました。一方でCREATE法によりVATに関する混乱が生じた背景があり、今回の変更でも、判断基準等の実務上の混乱が生じることが想定されます。
CREATE MORE法施行後90日以内にIRR(施行規則)が公表されることになっているため、2025年2月中には公表される見込みです。IRRが公表され次第、改めて情報を発信させていただきます。

参照(CREATE MORE法):
https://www.officialgazette.gov.ph/downloads/2024/11nov/20241108-RA-12066-FRM.pdf

朝日ネットワークスフィリピン 米国公認会計士 安藤拓也 tando@asahinet.ph