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移転価格税制の基礎(10)
不服申立て、税務訴訟、相互協議とは?

2018.01.29

2017年7月25日の日経新聞で、「武田薬品工業が大阪国税局の税務調査を受け、国内で計上すべき所得を海外子会社に移転したとして、移転価格税制に基づき2015年3月期までの5年間に計約71億円の申告漏れを指摘されていた」ことが明らかになった旨の報道がありました。武田薬品は、「同局に再調査を申し立てる方針」であり、「日本とドイツで二重課税が起きているとして、両国の当局同士で協議することも求める」ということです。

 海外関連会社間取引に係る税務調査において、税務当局に移転価格が適正でないとして所得を更正された場合、その金額が多額になることが少なくありません。また、日本の税務当局に所得の増額更正を受けたからといって、海外関連会社の所在国の税務当局が、対応的に所得の減額更正をしてくれるものではなく、同一の所得に二重課税が生じる結果となります。移転価格課税は、損益に重大な影響をもたらし、企業の屋台骨を揺るがしかねない大問題です。

 税務当局の所得の更正などの処分に不服な場合には、以下のように、国内法と租税条約で権利救済方法が設けられています。

 国内法上の権利救済制度~国税不服申立制度とは?

(以下、平成28年4月1日以後に行われる処分に係る不服申立てを前提に解説)

税務当局が行った処分に不服がある場合には、その処分の取消や変更を求めて、不服申立て(再調査の請求・審査請求・訴訟)を行うことができます。

(1) 再調査の請求

税務当局の所得更正などの処分に不服があるときは、通知を受けた日の翌日から3か月以内に、税務署長に対して、「再調査の請求」(平成26年6月改正前:異議申立て)を行うことができます。その請求についての決定後の処分になお不服がある場合には、国税不服審判所に「審査請求」を行うことが可能です。また、再調査の請求を行わずに、直接、国税不服審判所に「審査請求」を行うこともできます。

(2) 国税不服審判所への審査請求

税務当局の所得更正などの処分に不服があるときは、通知を受けた日の翌日から3か月以内に、国税不服審判所へ「審査請求」を行うことができます。また、上記の再調査の請求を行った場合であっても、その決定後の処分になお不服がある場合には、再調査決定書の通知を受けた日の翌日から1か月以内に審査請求を行うことが可能です。国税不服審判所は、処分が正しかったかどうかを調査・審理し、その結果を「裁決書」により納税者と処分を行った税務当局に通知します。

(3) 訴訟

国税不服審判所の裁決を受けた後、なお処分に不服があるときは、その通知を受けた日の翌日から6ヶ月以内に裁判所に「訴訟」を起こすことができます。

租税条約上の権利救済制度~相互協議とは

納税者が移転価格課税を受けた場合は、日本と海外関連会社の居住国において、二重に課税を受けることになります。その救済措置として、租税条約上の相互協議を申立てることができます。

 相互協議とは、納税者が租税条約の規定に適合しない課税を受け、または受けるに至ると認められる場合において、租税条約締結国の税務当局間で解決を図るための協議手続です。日本が締結した租税条約のすべてに相互協議条項が規定されています。

 この相互協議は、上記の国内法上の不服申立てと別に申立てることができます。この場合、実務的には、相互協議が行われる間は不服申立てを中断し、相互協議が合意に至らなかった場合に、不服申立て手続を再開するという流れになっています。

 相互協議では、日本の税務当局と海外関連会社の居住国の税務当局が協議を行いますが、両者は合意に向かって努力を払う義務はあっても、合意する義務はありません。また、納税者自体は直接協議に参加することはできません。

移転価格課税への対処は事後手続よりも事前対策を

上記のように、移転価格課税を受けた場合には、諸々の救済制度が設けられています。しかし、このような事後手続では、必ずしも課税処分の取消や相互協議の合意に至る保証はありません。また、手続に対応するための人件費や外部専門家に支払う費用は相当な金額になるのが通常です。事後手続はできるだけ避けたいものです。

よって、事前に移転価格の正当性を立証して、それを文書化しておき、税務調査に備えることが重要です。また、確定申告書の提出期限までに(取引金額が50億円未満の場合には、税務調査官が指定した日までに)、ローカルファイルを作成して、推定課税や同業者調査を回避し、移転価格に係わる所得更正金額を最小限に抑えることが望まれます。

以上