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JAPAN 国際税務 移転価格
平成28年度税制改正大綱(移転価格文書化、日台租税条約)
2016.01.13
平成27年(2015年)12月24日、平成28年度税制改正大綱が閣議決定されました。この大綱に従い、本年平成28年(2016年)1月の通常国会に税制改正関連法案が提出され審議にかけられます。
国際課税に関しては、移転価格税制に係る文書化、日台民間租税取決め(租税条約)に係る国内法の整備などの改正が行われています。
【1】移転価格税制に係る文書化
移転価格税制に係る文書化制度について、「BEPSプロジェクト*1」の行動13に対応して示されたOECDの勧告を踏まえ、次のような措置が講じられました。
(*1)BEPS(Base Erosion and Profit Shifting: 税源浸食と所得移転)とは、国際的な税制の隙間や抜け穴を不当に利用した租税回避戦略を言います。OECDは解決策を提示するためにBEPSプロジェクトを立上げ、15の行動計画を策定し、2015年10月5日、最終勧告を公表しました。
(1)国別報告事項のe-Taxによる提出
(2)マスターファイル(事業概況報告事項)のe-Taxによる提出
(3)ローカルファイル(独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類)の作成と7年間の保存
(1) 国別報告事項のe-Taxによる提出
多国籍企業グループの最終親事業体である内国法人等は、当該多国籍企業グループの国別報告事項(グループが事業を行う国ごとの収入金額、税引前当期利益の額、納付税額その他必要な事項)をe-Taxにより提出しなければならないこととされました。
提出は、最終親事業体の会計期末日の翌日から1年を経過する日までに行う必要があります。ただし、直前会計年度の連結総収入金額が1,000億円未満の多国籍企業グループは、当該提出義務を免除されます。
この改正は、平成28年4月1日以後に開始する最終親事業体の会計年度に係る国別報告事項について適用されます。
(2) マスターファイルのe-Taxによる提出
多国籍企業グループの最終親事業体である内国法人等は、当該多国籍企業グループのマスターファイル(事業概況報告事項)をe-Taxにより提出しなければならないこととされました。
提出は、最終親事業体の会計期末日の翌日から1年を経過する日までに行う必要があります。ただし、直前会計年度の連結総収入金額が1,000億円未満の多国籍企業グループは、当該提出義務を免除されます。
この改正は、平成28年4月1日以後に開始する最終親事業体の会計年度(平成29年3月決算より。この提出期限は平成30年3月)に係るマスターファイルについて適用されます。
(3) ローカルファイルの作成と7年間の保存
ローカルファイル(国外関連取引に係る独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(電磁的記録を含む))を確定申告書の提出期限までに作成し、原則として、7年間保存しなければならないこととされます(「同時文書化義務」)。
ただし、一の国外関連者との取引金額が50億円未満、かつ、その国外関連者との前期の無形資産取引金額が3億円未満である場合、その国外関連者との当期の国外関連取引については作成・保存義務が免除されます。
また、ローカルファイル等の提示または提出(以下、「提出等」)がない場合の、推定課税及び同業者調査(同種の事業を営む者に対する質問検査)の要件を明確化する観点から、次の整備が行われます。
a. 同時文書化義務のある国外関連取引に係る推定課税等
次に掲げる場合に該当するときは、推定課税・同業者調査を行うことができることとされます。
◆ 同時文書化義務のある国外関連取引について、国税当局の当該職員がローカルファイルの提出等を求めた場合において、45日以内の期日で当該職員が指定する日までに提出等がなかったとき
◆ 同時文書化義務のある国外関連取引について、国税当局の当該職員がローカルファイルの作成の基礎となる資料及び関連する資料等の独立企業間価格を算定するために重要と認められる書類の提出等を求めた場合において、60日以内の期日で当該職員が指定する日までに提出等がなかったとき
b. 同時文書化義務のない国外関連取引に係る推定課税等
同時文書化義務のない国外関連取引について、国税当局の当該職員が、ローカルファイルに相当する資料等の独立企業間価格を算定するために重要と認められる書類の提出等を求めた場合において、60日以内の期日で当該職員が指定する日までに提出等がなかったときは、推定課税・同業者調査を行うことができることとされます。
なお、上記②より、たとえ同時文書化義務のない国外関連取引であっても、国税当局から請求があった場合に60日以内の指定日までにローカルファイルに相当する資料等の提出等がなければ、推定課税・同業者調査が行われます。したがって、当該義務のない取引についてもローカルファイルの作成・保存をお勧めします。
この改正は、平成29年4月1日以降に開始する事業年度分の法人税(平成30年3月決算より)について適用されます。
【2】日台民間租税取決め(租税条約)に規定された内容の実施に係る国内法の整備
2015年11月26日、日本と台湾との投資・経済交流を促進するため、「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための公益財団法人交流協会と阿東関係協会との間の取決め(日台民間租税取決め)」が締結されました。この取決めは基本的にはOECDモデル租税条約に則しています。
日本と台湾の間は正式な国交がないため、当該取決めは交流窓口である公益財団法人交流協会(日本側)と阿東関係協会(台湾側)が民間レベルで署名を行っています。今回の改正は、当該取決めに効力を持たせるために国内法の整備を行ったものです。台湾においても、日本の居住者や内国法人が同様の措置を受けられるよう、法整備が行われます。
これらの措置は相互主義(台湾において日本の居住者又は内国法人に対して同様の権利が認められること)を前提として講じられます。
(1) 配当・利子・使用料に係る源泉所得税率の軽減
日本と台湾の間で支払われる配当・利子・使用料について、源泉地(所得が生じる地域)における税率を当該対象配当等の10%相当額に引き下げます。
(2) 恒久的施設に係る規定
日台民間租税取決めでは、恒久的施設(PE)については、事業を行う一定の場所で、企業がその事業の全部又は一部を行っているものをいい、以下のようなものを含むとされています。
◆支店や事務所、工場など
◆建築工事現場若しくは建設等に関連する監督活動(その工事等の期間が6か月を超える場合に限ります)
◆企業が行う役務提供(コンサルティング等)で、使用人等を通じて行われるもの(12か月間において合計183日を超える期間、一方の地域内で行われる場合に限ります。)
(3) 相互協議手続
企業が進出先の税務当局から受けた課税で生じた問題を解決するため、相互協議手続が導入されます。
(4) 情報交換
日本と台湾双方の効果的な税務行政執行のため、租税に係る情報を日台の税務当局間で交換する情報交換規定が導入されます。
適用時期は、税制大綱では「台湾において相互主義が確保されるために必要な手続が完了する時期に合わせて実施する」とされ、具体的な時期は確定していません。交流協会は、早くても平成29年1月からの実施になるのではと考えているようです。
以上