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PHILIPPINES 会計・税務
【PHILIPPINES】フィリピンの会計基準
2024.07.23
1. はじめに
日本とフィリピンの経済的な繋がりは非常に強く、特にフィリピンの若くて豊富な労働力や経済成長を期待してフィリピンに進出する日系企業も非常に多い状況です。外務省の「海外進出日系企業拠点数調査」によると、その数は2023年時点で1,604社にものぼり、まだまだ増加傾向が続いています。
フィリピン進出に際しては、当然のことながらフィリピンの法規制等を把握し、適切な事前準備・事業運営をすることが欠かせません。「会計基準」についても、フィリピンにおける基準を理解し適用することは非常に重要です。
本記事では、特にフィリピン進出済み、または進出を検討されている日系企業の皆様のお役に立てるような観点でフィリピンの「会計基準」について紹介します。
2. 日本とフィリピンの会計基準
「会計基準」とは企業が財務諸表を作成する際のルールのことです。
企業は、財務諸表(損益計算書や貸借対照表など)を作成し、その利害関係者(株主や債権者)に、経営成績や財政状態を報告する義務があります。仮に各企業が自由に財務諸表を作成した場合、企業ごとの現時点での状況を把握することはできても、過去の業績や他の企業との業績比較をすることが難しくなります。つまり、企業の利害関係者は正しい投資の判断ができなくなってしまいます。そのような事が起きないためにも、企業は「会計基準」というルールに則って、財務諸表を作成する必要があります。
日本国内の企業は、日本基準(J-GAAP:J- ”日本(JAPAN)の「J」” Generally Accepted Accounting Principles)に従い財務諸表を作成します。特定の条件を満たす企業にはIFRSの適用も認められています。中小企業には、中小企業会計基準が用意されており、米国との取引がある企業には米国会計基準(US-GAAP)が適用される場合もあります。企業は自社の規模や事業内容、国際取引の有無に応じて適切な「会計基準」を選択し、適用する必要があります。
一方で、フィリピンの「会計基準」は、国際財務報告基準(IFRS:International Financial Reporting Standards)と同等のフィリピン財務報告基準(PFRS:Philippine Financial Reporting Standards)が適用されています。さらに企業が一定の要件を満たす場合は、PFRSの簡易版である中小企業向けフィリピン財務報告基準(PFRS for SMEs: Philippines Financial Report Standards for Small and Micro Enterprises)や小規模企業向け財務報告基準(PFRS for SEs:Philippine Financial Reporting Standards for Small Entities)を採用することが出来ます。
3. 日本基準(J-GAAP)とフィリピン財務報告基準(PFRS)との主な差異
フィリピンの「会計基準」の概要を理解するためには、J-GAAPと比較を行い、主な差異の内容について把握することが有用かと思います。ここでは、J-GAAPとPFRSの代表的な差異について比較表形式で紹介します。
主な差異 |
日本基準 |
フィリピン財務報告基準 |
会計基準の適用 |
J-GAAPが広く適用されます(特 |
IFRSに準拠したPFRSが適用されます |
機能通貨 |
機能通貨についての定めは特にな |
機能通貨は、企業がその主要な経済環境 |
有形固定資産 |
計上時期や計上金額、耐用年数な |
原理・原則が明記されているのみで、耐 |
のれん |
のれんは効果の及ぶ期間(20年以 |
のれんは規則的な償却は行いません。減 |
リース会計 |
J-GAAPでも新リース会計基準の |
リース新基準(PFRS 16)に基づき、借 |
4. 損益表示項目の主な差異
上記では、J-GAAPとPFSRの主な差異について述べましたが、J-GAAPとPFRSでは損益項目の表示に特に大きな差異があると言われます。これは、J-GAAPは基本的に損益計算書を重視する主義であるのに対し、PFSRは貸借対照表を重視しているためであると考えます。ここでは、損益項目の表示に焦点をあててその主な差異について紹介します。
主な差異 |
日本基準 |
フィリピン財務報告基準 |
段階損益の表示 |
損益計算書において、売上総利益、 |
純損益についての表示が求められて |
営業利益 |
売上高から売上原価を差し引いた売 |
上記の通り、PFRSには段階利益の |
減価償却費 |
取得単位ごとに計画的・規則的に償 |
重要な構成部分について個別に原価 |
特別損益 |
臨時・異常な項目については特別損 |
収益または費用のいかなる項目も異 |
減損損失 |
有形固定資産は減損会計基準に従い |
特別な基準はなく、最低年1回減損の |
費用項目の分類表示
|
PFRSの機能別に近い形で費用項目を |
以下のどちらかの分類方法を選択し 機能別分類 … 費用を販売費、製造原 性質別分類 … 費用を原材料費、従業員 |
継続事業と非継続事業の区分表示 |
当期純利益をPFRSのように区分表示 |
当期純利益を継続事業と非継続事業 |
5. 日系企業が留意すべき事項
J-GAAPとPFRSの代表的な差異は上記のとおりですが、裏を返すとそれ以外の大部分の項目については大きな差異がありません。また、フィリピンに進出済みの多くの日系企業にとって減損損失やのれんの処理が必要となるケースは少なく、実務上はJ-GAAPとPFRSの差異について強く意識しなくてもそれほど支障はないかと思います。特に日系企業においてマネジメントの立場から関わる方は、PFRSの概要、及びJ-GAAPとの最低限の差異について理解しておくだけで十分だと考えられます。
すべての日系企業に関連する差異としては、固定資産の減価償却が挙げられます。税法を参考とする日本とは異なり、PFRSでは経済的耐用年数に基づき各社が判断することになるため、経理担当者や会計監査人と協議する際には、この差異を念頭に入れる必要があります。加えて、業績指標として活用されることの多い「営業利益」に関しても、J-GAAPとPFRSではその対象項目が異なるため、留意が必要です。
本記事は、フィリピンの「会計基準」についての概要を簡潔に紹介することを目的としています。各企業の状況に応じた具体的な内容については、専門家等に個別にご相談ください。
朝日ネットワークスフィリピン 日本公認会計士 篠原之典 yshinohara@asahinet.ph