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THAILAND 社会保険
労働者保護法(Labour Protection Act)の改正について
2019.07.30
すでに各紙記事でご存知と存じますが、タイの労働者保護法(Labour Protection Act;LPA)の一部が改正され、2019年5月5日より施行されています。
その概要と、問い合わせの多い「用事休暇(Personal Leave)」の実務的対応についての見解をお伝え致します。
1. 用事休暇(Personal Leave)の義務化
改正点及び要点 |
有給で、「年間3日以上」の「用事休暇」の付与を義務づけられるとともに、就業規則への記載義務が消去されました。(第34条、57/1条) 要点:用事休暇の範囲を決めることで、都度対応が避けられます |
条文では、用事休暇とは何かについて具体的に定義されておらず、一般的には、
① IDや免許証の更新、婚姻届、パスポート取得といった個人的に必須の行政手続のための休暇
② 結婚式やお葬式といった慶弔休暇
と解釈されます。
もし会社が、用事休暇の定義付けを行わない場合には、その都度社員から、用事休暇なのか?有給消化となるのか?の判断を求められ、必然的にその範囲が広がることも考えられるため、「用事休暇の定義付けをする」ことをお勧め致します。その上で、用事休暇の付与規定を策定されると良いと思います。
例えばですが、以下が考えられます。
上記①と②の双方を付与する。
その前提で、対象となる行政手続とは何かを規定し、慶弔休暇の範囲を明確にする。例えば、
◎ 用事休暇については、通常一日で完了する手続(IDカードの取得、運転免許証の更新、官公庁での手続など)とし、用事休暇を連続2日以上で申請することは認めない。
◎ 慶弔休暇の例として、結婚式の出席は「本人」や「本人の子」などに限定する。葬儀の場合、関係により日数を予め定めておく(両親、配偶者、子、同居の祖父母など)
①若しくは②のみを付与する。
ちなみに、弊社は②のみを規定しました。現状の解釈では問題ないと考えておりますが、今後、法解釈で広範囲に規定することが求められることとなった場合には、その時に検討することとし、まず今回の新規定については最低限のところから運用することにしました。
2. 解雇補償金(Severance Pay)の改定
改正点及び要点 | ||||
継続して20年以上勤続した労働者を会社都合により解雇する場合、従来の300日分賃金相当額以上から、400日分賃金相当額以上(出来高給の労働者の場合は直近400日間の賃金相当額以上)に増額されました。(第118条(6)) 改正後の解雇補償金は下記に則り計算します。
要点:およその影響額を見積もり、決算時での一括費用計上を避けたい場合には、月次決算にて引当することをご検討ください。 |
- 60歳で定年退職を迎える者も「会社都合による解雇」として解雇補償金支給対象となります。
- 退職給付引当金を見積り計上について、
◎ 従来、法定の定年退職である60歳時点で勤続10年以上が見込まれる者に対し:300日分賃金相当額をベースに算定
◎ 今後、60歳時点で勤続20年以上が見込まれる者に対し:400日分賃金相当額をベース
への見直しが必要となり、会計上、毎期の費用計上額が増加することになります。
3.その他の改正事項
改正事項 |
改正点 |
産前・産後休暇 Maternity Leave |
産休の上限日数が年間98日(改正前は90日)に増加しました。 また産休には検査のための休業も含まれることが追加されました。 (第41条) 45日分については有給の休暇であることは変更ありません。 |
従業員の転籍 Employee Transfer |
営業譲渡や合併等により雇用者が変更となる際、使用者は労働者からの承諾を受けることが義務化されました。 (第13条) |
解雇の事前通知 Advance notice |
使用者が解雇の事前通知を行わなかった場合、解雇有効日までの賃金の支払い義務があることが明記されました。 (第17/1条) |
特別解雇補償 Special Severance Pay |
事業所の移転が、本人やその家族の通常の生活に重大な影響を及ぼすため、新しい事業所での労働を望まない労働者に対して、特別解雇補償金の支給の義務がある旨に改定されました。 (第120条) |
- ◎ 今回の労働者保護法改正に伴い就業規則を改定する場合は、改定してから7日以内に事業所内に掲示する必要があります。
- ◎ 2017年4月4日以降は、従業員を10人以上雇用する会社であっても、就業規則を労働当局へ届け出る必要はなくなりましたが、従業員を10人以上雇用する会社は、引き続き、就業規則を作成して15日以内に事業所内に掲示する必要があります。